東京高等裁判所 昭和63年(行コ)40号 判決 1993年8月30日
控訴人
小泉英政
控訴人
小泉美代
右両名訴訟代理人弁護士
前田裕司
同
大谷恭子
同
城加武彦
被控訴人
千葉県収用委員会
被控訴人
建設大臣
五十嵐広三
右両名指定代理人
矢吹雄太郎
外一名
被控訴人建設大臣指定代理人
浅野敬広
外四名
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人千葉県収用委員会(以下「被控訴人委員会」という。)が昭和四六年六月一二日付けでした原判決別紙一「処分目録」(一)記載の緊急裁決(以下「本件緊急裁決」という。)のうち、同別紙二「物件目録」記載の土地に係る部分を取り消す。
3 被控訴人建設大臣(以下「被控訴人大臣」という。)が昭和五五年八月二九日付けでした同別紙一「処分目録」(二)記載の裁決(以下「本件裁決」という。)のうち、審査請求人の請求を棄却するとの部分を取り消す。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり改めるほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決五枚目裏一行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 憲法二五条を解釈原理とする同法二九条三項は単に交換価値についての補償を定めたものではなく、生存権的価値の補償をも要求しているのであって、このことは行政実務においても営業補償や離職者補償等の生活権補償が行われていることからも明らかである。
したがって、生存権的財産権の補償を予定していない特措法は違憲であり、この違憲の特措法が適用された本件においては、よねに対する本件一二番地についての仮補償金額の額は六一万五三五四円という著しく低い額であり、本件一八番地の仮補償金が土地所有者とされた岩沢真治に対するのと一括供託であること、二四番地の土地は断行の仮処分で補償がなされていないことと相まって生活権補償が実現されておらず、不当な結果を惹起している。」
二 同六枚目表四行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 また、当該公共事業に反対の者は補償金の支払請求を行うはずがないから、実質的には右機会を与えられず、正当な補償を受けられないものであり、収用法七一条の規定は憲法一四条、二九条三項に違反する。
さらに、昭和四二年改正後の収用法七一条は補償金の額を算定する基準時を従前の裁決時から事業認定時に改めた。右改正は開発利益の帰属の適正化を目的としたものであるが、その目的にそうものではないし、いわゆるゴネ得の防止という目的にも合理性がないから、憲法二九条三項に違反する。」
三 同九枚目裏七行目の「右(1)のとおり、」の次に「事業規模に著しい増減があり、公益性等の判断に大きな影響を与えるものであるから、」を加える。
四 同一五枚目八行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 また、本件第一期工事区域内には、本件緊急裁決時に取得の見込みがなかったのにもかかわらず緊急裁決の対象とならなかった収用事件番号三七番の土地が存在しており、同土地は緊急裁決後四年を経過してから任意取得されていることからみても、本件緊急裁決には緊急性がなかったというべきである。」
五 同一八枚目表九行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 このことは、本件一二番地についてのよねの賃借権及び成田市天浪字黄金台二一三番の四の土地(収用事件番号二二番の共同墓地)について個別補償がなされていることからも明らかである。」
六 同四二枚目裏七行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 なお、新空港の開港時にかろうじて設定された空域も羽田空域及び百里空域を削ってできあがったいわゆるトンネル空域で、危険極まりないものであり、この点からみても緊急性がなかったことが明らかである。」
七 同四六枚目表一〇行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 本件においては、被控訴人大臣は、ひたすら不作為の違法確認事件の敗訴を免れる目的で本件裁決の審理を急ぎ、そのために無理な期日指定をしたものであり、また、審査請求人代理人らが意見陳述をしなくても、審査請求人自身には口頭意見陳述の機会を与えるべきであったから、控訴人らに対して改めて口頭意見陳述の機会を与えなかったことは明らかに違法である。」
八 同五〇枚目表六行目の「一六日」を「二六日」と、同六二枚目表二行目の「新空港工事施計画」を「新空港工事実施計画」と、同九行目の「茨木県」を「茨城県」と、同六五枚目表一〇行目の「その地」を」その他」と、同九六枚目表五行目の「適性手続条項」を「適正手続条項」と、同一一〇枚目裏七行目の「茨木県」を「茨城県」と、同六五枚目表一〇行目の「その地」を「その他」と、同九六枚目表五行目の「適性手続条項」を「適正手続条項」と、同一一六枚目表一行目の「特公事業確定」を「特公事業認定」と、同一三〇枚目裏一一行目の「特措法二〇条四号」を「特措法七条四号」とそれぞれ改める。
第三 証拠<省略>
理由
一当裁判所も、控訴人らの被控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一五五枚目五行目の次の行を改めて次のとおり加える。
「 控訴人らは、当該公共事業に反対の者は補償金の支払請求を行うはずがなく、実質的には右機会を与えられず、正当な補償を受けられなくなるから、収用法七一条の規定は憲法一四条、二九条三項に違反すると主張するが、右のような代替地を取得しうる機会が保障され、与えられているのに、これを享受しようとしない者が結果として何らかの経済的不利益を受けることがあるとしても、それは自らの選択の結果であって、これをもって不平等な取扱いといえないことはもとより、正当な補償がなされないということはできないから、控訴人らの右主張は理由がない。
また、控訴人らは、補償金の額を算定する基準時を従前の裁決時から事業認定時に改めた昭和四二年改正後の収用法七一条は、その目的とした開発利益の帰属の適正化にはほとんど役立たないし、いわゆるゴネ得の防止という目的にも合理性がないから、憲法二九条三項に違反すると主張するが、右改正は、従来の裁決時の価格を基準にした制度が弊害を招いたことから、公共の利益の増進と私有財産の調整を図りつつ、被補償者間での不均衡を防止し、用地取得の円滑迅速化を図ったものとして合理性を有しており、前記のとおり、その補償に当たっては種々の配慮がなされていることからみて、憲法二九条三項に違反するものではない。右主張も理由がない。」
2 同一五五枚目裏五行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 控訴人らは、憲法二五条を解釈原理とする同法二九条三項は交換価値的対価のみの補償を定めた規定ではなく、生存権的価値の補償をも要求しているのであって、生活権補償がなされないことは同法二九条三項に違反すると主張するが、同法二九条三項にいう正当な補償が財産的損失を経済的な交換価値として補償しようとするものであるから、主張するところの生存権的価値の補償をも含むものでないことは既に判示したとおりであり、控訴人らは行政実務上でも営業補償等の生活権補償を行っていることを指摘するが、右のような行政措置は、同法二九条三項の補償とは別異な政策的配慮に基づくものと認めるのが相当であるから、主張は理由がない。
また、控訴人らは、生存権的財産権の補償を予定していない特措法は違憲であり、この違憲の特措法が適用された本件においては、よねに対する本件一二番地の仮補償金の額が六一万五三五四円と著しく低額であり、本件一八番地の仮補償金が土地所有者とされた岩沢真治との一括供託であること、二四番地の土地は断行の仮処分で補償がなされていないことと相まって生活権補償が実現されておらず、不当な結果を惹起していると主張するが、前記のとおり、憲法二九条三項が生存権的価値の補償をも要求しているものと解することはできないから、右主張はその前提に誤りがあるうえ、被控訴人委員会が本件一八番地の仮補償金を土地所有者と一括して供託したことが適法であることは後記6の(二)(項目の表示は原判決の表示を示すものである。以下同じ。)のとおりであり、二四番地の土地が緊急裁決の対象地とされなかったことに合理的理由があることは後記2の(二)のとおりである。」
3 同一六一枚目表一行目の「本件両土地の所有者」を「本件一二番地の所有者である伊藤文亮及び本件一八番地の所有者」と、同表六行目の「第一期施設の工事工程上、」から八行目の「土地であったこと、」までを「第一期施設の工事工程としては、地盤改良工事及び盛土工事が最初に施行される必要があったが、本件一二番地は地盤改良工事及び盛土工事の双方が、本件一八番地は盛土工事がそれぞれ必要とされる土地であったこと、」とそれぞれ改める。
4 同一六四枚目裏六行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 控訴人らは、収用裁決申請に係る本件事業の事業計画と特公事業認定における本件第一期事業の事業計画との事業規模には著しい増減があり、公益性等の判断に大きな影響を与えるものであるから、収用法四七条二号の「著しく異なる」場合に当たると主張するが、特措法一九条で読み替えられた収用法四七条二号の「著しく異なるとき」とは、事業認定における土地利用上、公益上等の判断を維持することができない程度の変更があったか否かが判断基準であると解すべきところ、前記のとおり、「本件事業の一部である本件第一期事業に対応する事業」と「本件第一期事業」の両事業計画は同一であり、その余の部分の事業が廃止されるなどの計画変更があったわけではなく、特措法は、公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要する事業に必要な土地の取得に関しての特例を定めたものであって、本件のように一個の事業のうちでその建設過程で特に緊急性を要する部分について特公事業認定を受けることは同法の趣旨に反しないものであるから、控訴人らの右主張は理由がない。」
5 同一六五枚目裏六行目から同一六六枚目表五行目までを次のとおり改める。
「(二) まず、右(ⅰ)及び(ⅱ)の事項に係る主張について検討するに、これらは特公事業認定である本件第一期事業認定の要件に関わるものであるが、本件緊急裁決の要件とはいえないから、被控訴人委員会の判断事項ということはできないものであって、これらが本件緊急裁決における被控訴人委員会の審査の対象であるとの控訴人らの主張は理由がない。しかし、後記9の(一)説示(違法性の承継。ただし、本判決理由一の12のとおり訂正)のとおり、緊急裁決の取消訴訟において、特公事業認定の要件は審理判断の対象となり、このことは収用委員会の審査権限の有無とは関わりがないものと解されるから、特公事業認定である本件第一期事業認定の要件に関わる右(ⅰ)及び(ⅱ)の主張は、本件緊急裁決の取消訴訟である本件訴訟において審理判断すべき事項と考えられる。そうして、控訴人らは、原判決請求原因3の(九)の(3)及び(7)において、特公事業認定の違法事由として右の(ⅰ)及び(ⅱ)と同旨の主張をしているが、右請求原因3の(九)の(3)及び(7)の主張が理由がないことは、後記9の(四)の(1)(航空燃料輸送の問題)及び(5)(航空保安施設用地の確保の問題)の説示のとおりである。)」
6 同一六六枚目裏四行目の「第一期施設の」から六行目の「必要な土地であったが、」までを「第一期施設の工事工程としては、地盤改良工事及び盛土工事が最初に施行される必要があり、本件一二番地は地盤改良工事及び盛土工事の双方が、本件一八番地は盛土工事がそれぞれ必要とされる土地であったところ、」と改める。
7 同一六八枚目裏一一行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 控訴人らは、本件第一期工事区域内に緊急裁決の対象とならなかった収用事件番号三七番の土地が存在することをもって、本件緊急裁決には緊急性がなかったと主張するが、原審証人森浩の証言によれば、収用事件番号三七番の土地は、将来の道路予定地であったが、着陸帯のごく一部に道路がかかっていても着陸帯として使用することに支障がないことや、取得後の工事量がそれほど多くないことなどの事情があっため、起業者においてなるべく任意取得の方法によることとして、緊急裁決の申立てを留保していたことが認められるのであって、本件緊急裁決の緊急性の有無の判断の支障となるものではない。
また、控訴人らは、収用事件番号一一番、一三番及び一四番の土地等緊急裁決のあった土地のうち代執行の行われなかった土地が存在することをもって、本件緊急裁決には緊急性がなかったとも主張するが、これらは緊急裁決後の事情を指摘するものにすぎないものであるから、本件緊急裁決の緊急性の要件に直ちに影響を及ぼすものとはいえないし、原審証人西内繁行及び横井一仁の各証言によれば、起業者がこれらの土地については任意の明渡しを得られる見込みがあることなどから代執行を行わなかったことが認められるから、控訴人らの右主張も理由がない。」
8 同一八〇枚目表一行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 控訴人らは、本件一二番地についてのよねの賃借権及び収用事件番号二二番の共同墓地について個別補償がなされていることからすると、本件一八番地についても個別補償を行うことが可能であったと主張するが、原審証人西内繁行及び同但馬弘衛の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件一二番地及び右共同墓地については、権利関係が比較的明確であったことが認められ、他方、前記のとおり本件一八番地に対するよねの使用借権の具体的内容が把握できなかったことが窺われるところ、特措法二一条一項の規定に鑑みると、収用委員会がこの点につき調査を尽くさなければならないとは解されない。結局、控訴人らの右主張は理由がない。」
9 同一八四枚目裏九行目から同一八五枚目表八行目までを次のとおり改める。
「 原本の存在及び成立に争いのない<書証番号略>によれば、昭和四六年八月一三日四五建設省茨計総発第一七号計画局総務課長回答として「明渡し裁決申立てをしようとする土地に物件が存在しない場合にも、物件調書の作成を要するものと解する。」との回答がなされていることが認められるが、右回答は、物件が対象土地上に存在しない場合にもその旨の調書を作成すれば、物件がないことが明確になり、審理の円滑な促進に資することから、実務上の取扱いとして物件調書の作成を要するとの行政庁の見解を示したものと認めるのが相当であるし、そもそも物件調書は前記(原判決一八四枚目表)のとおり収用委員会における審理に際して事実の調査、確認を容易にし、もってその審理の効率化を図るため、対象土地上の物件及び物件に関する権利の種類、内容、その所有者又は権利等について記載するものであることからみても、右回答が対象土地上に物件の存在しない場合の物件調書不作成の法的効果についての解釈を述べたものと認めることはできず、これをもって、物件調書の作成がない場合に緊急裁決を取り消さなければならないものとすべき根拠はないというべきである。」
10 同一八六枚目裏六行目から八行目にかけての「(しかも、よねは、その不提出によって不利益を受けていない。)」を削除する。
11 同一八七枚目表七行目の「しかし、」の次に「特措法には右の期間経過によって収用委員会が当然に緊急裁決をする権限を失う旨の明文の規定はなく、起業者からの異議申立てがなされない限り後記のような代行裁決手続に至る一連の規定が適用されないことからみても、」を加える。
12 同一九七枚目表三行目から同裏八行目までを次のとおり改める。
「(一) 違法性の承継について
被控訴人らは、特公事業認定の違法性は緊急裁決に承継されるものではないと主張し、その理由として、(1)違法性の承継を肯定することは公定力理論に重大な例外を認めるものであるから、十分に合理的な理由が必要であるのに、それが認められないこと、(2)中間段階で行政行為について処分性が認められ、独立して抗告訴訟の対象とされている場合は、強い独立性が認められる反面、出訴期間の制限がなされていることの意義も重視されるべきであるが、違法性の承継を肯定すると、特公事業認定の取消訴訟について定められている出訴期間の制限を実質的に無意味ならしめるものであること、(3)特公事業認定及び緊急裁決の各取消訴訟において相互に矛盾、抵触した判断がなされ、耐えがたい混乱を招くおそれがあること、(4)あらかじめ法律によって処分権者及び処分要件が定められており、それぞれについて抗告訴訟を提起する途が開かれているのに、事業認定についての処分権者である建設大臣を相手に取消訴訟を提起することなく、緊急裁決の取消訴訟を提起し、同訴訟において、事業認定の適法性について何ら審査権限を有せず、弁明できる立場にもない収用委員会に対してその違法を主張しうるというのはいかにも不自然であり、行政事件訴訟法一一条、二三条の趣旨にも反するものであることを指摘する。
しかし、緊急裁決は、先に特措法七条に基づく特公事業認定がなされていることを前提とし(特措法二〇条一項)、これに引き続いて行われるもので、特公事業認定と緊急裁決とは、その直接の効果は異なるものの、両者は相結合して特公事業に係る起業地の収用等という一つの法律効果の発生を目指す一連の行為であり、特公事業認定自体は具体的権利義務関係を形成する法律効果が希薄なもので、後行の緊急裁決をまってはじめて処分による権利義務関係が具体的に形成されるものである。このような場合にあっては、先行の特公事業認定行為に違法があれば、後行の緊急裁決は当然に違法になり、緊急裁決の取消訴訟において、特定公共事業認定の要件は審理判断の対象となるものと解するのが相当である。
被控訴人らは、違法性の承継を認めると公定力の例外を認めることになり、出訴期間の制限を無意味なものにすると主張する。しかし、法が、先行する特公事業認定を独立の行政行為として、これに対する争訟の機会を設けたのは、土地収用が国民の権利利益に重大な影響を及ぼすものであるところから、できる限り早期に事業対象者にこれを争う機会を与えるのを相当として、先行の事業認定についても処分性を肯定するものと解せられるから、後行の緊急裁決により処分性の具体性が明確になった段階で先行の処分の違法性を含めてこれを争い得るとすることが右制度の趣旨に合するものであり、このように解するとしても、右両処分の右性格、関係に照らし、手続の不安定性を生じ、出訴期間の制限を無意味にするものとは解されない。なお、事業認定に対する取消訴訟を提起して棄却判決が確定した当事者は緊急裁決に対する取消訴訟において事業認定の違法事由を主張することができないと解されるが、これは前訴判決の既判力に基づくものであるから、右と同一に論じることはできない。
さらに、被控訴人らは、事業認定の処分権者である建設大臣を相手に取消訴訟を提起しうる途が設けられているのに、これを提起しないで、緊急裁決の取消訴訟において、事業認定の適法性の審査権限を有しない収用委員会に対してこの違法性を主張しうるというのはいかにも不自然であり、行政事件訴訟法一一条、二三条の趣旨にも反すると主張する。しかし、法が、先行の特公事業認定を独立の行政行為として、これに対する争訟の機会を設けた趣旨は、前記のとおりであるから、特公事業認定に対する争訟の機会が設けられていることは、違法性の承継を否定する理由とはならないし、また、違法性の承継について前示のとおり解する以上、後行処分の行政庁に先行処分の適否を審査する権限があるか否かは問題とすべき余地はない。
以上のとおりであって、被控訴人らの右主張は理由がない。
13 同二〇二枚目表三行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 控訴人らは、羽田空港の沖合展開計画が進行していることを指摘するが、右は処分後の事情にすぎないものであるうえ、成立に争いのない<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、同計画は、新空港が開港して国際線が同空港に移転したことによって、羽田空港に一時的に若干の余裕ができたものの、その後国内線の離着陸能力が限界にきたことを踏まえ、将来の国内航空需要に対処するとともに航空機騒音の緩和を目的とするものであって、この計画が完成しても将来にわたる国際線の需要増加にまで対応できるものでないことは従来と変わりがないと認められるから、同空港の拡張によっては国際、国内双方の航空需要の伸びに対応することができないものであったとの前記認定を左右するものとはいえない。」
14 同二〇五枚目表四行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 本件第一期事業の緊急施行性を認定するに当たっては、空港使用開始のために必要な航空燃料輸送等の関連事業の状況を考慮すべきであるが、その際、右各事業の具体的計画、内容及び完成予定日等が確定され、その実施状況からみて、完成が確実であることまでの認定を要するわけではなく、第一期事業の完成予定日までに右関係事業を実施され、完成される見込みがあると認められれば足りるものと解される。」
15 同二一〇枚目表一〇行目から同二一一枚目裏二行目までを次のとおり改める。
「前掲<書証番号略>によれば、新空港の候補地の選定に当たり、航空審議会、運輸省航空局等は管制専門家の意見を聴取した結果、当初の富里地区及びその後最適地と決定された三里塚地区の存する北総台地が百里空域、羽田空域、横田空域との空域の分離の点でも他の候補地より適当であり、同空港に必要かつ十分な空域が確保されることを確認しており、航空管制上問題がないと判定されていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
控訴人らは、本件第一期事業認定当時には空域に関する協議が整っておらず、具体的な空域が確定されていなかったと主張するが、右各証拠によると、具体的な空域は、航空機の機種、数等に応じて具体的な運航形態が定まるにつれて、関係機関が協議の上決定されるものであり、右のとおり、専門的見地から種々の検討が行われた結果、本件第一期事業認定当時において、新空港の空域を確保するために既存の空域の調整、分離が行われる見通しがあったものと認められるから、右主張は採用できない。
なお、控訴人らは、新空港の空域は羽田空域及び百里空域を削ってできあがったいわゆるトンネル空域であり、危険極まりないものであると主張し、<書証番号略>にはこれにそう趣旨の記述があるが、右はいずれも危険性に対する評価、認識について視点を異にするところから生じたもので、その科学的裏付けについて十分なものがあるとは認められないから、前記認定を覆すものとはいえない。」
16 同二一九枚目裏二行目から四行目にかけての「解されるところ、右の特段の事情については主張、立証があるとはいえないから、」を「解される。控訴人らは、被控訴人大臣がひたすら不作為に違法確認訴訟事件の敗訴を免れる目的で本件裁決の審理を急ぎ、そのために無理な期日指定をしたこと、及び、審査請求人代理人らが意見陳述をしなくても、審査請求人自身には口頭意見陳述の機会を与えるべきであったことが少なくとも右特段の事情に当たると主張する。前者については、原審証人大谷恭子の証言によれば、当時右訴訟が係属中であり、被控訴人大臣は本件裁決の審理を急いでいたことが窺われるが、前記の口頭意見陳述の期日及びこれを指定した日などからみて、審査請求人代理人は資料等の閲覧、口頭意見陳述をなしえたものと認められる。また、後者については、前記のとおり、審査請求人代理人において口頭意見陳述の機会を付与されながら正当な理由もなしにこれを利用しなかった以上、審査請求人が指定期日に意見陳述をすることが困難であったことは同人に改めて機会を与えるべき特段の事情とはいえない。よって、」と改める。
17 同二二一枚目裏一行目の「被告大臣は、」から八行目末尾までを、被控訴人大臣は、右書類等だけに基づいて本件裁決を行ったのではなく、被控訴人委員会から提出された資料、公害等調整委員会の意見その他職権調査による資料等必要かつ十分な資料を参考にして本件裁決を行ったことが認められるから、控訴人らの主張は採用できない。」と改める。
18 同一五八枚目表三行目の「憲法三一条」を「憲法三二条」と、同一五九枚目裏二行目の「西田繁行」を「西内繁行」と、同一七七枚目裏八行目の「賃貸借」を「賃借権」と、同一七八枚目表一行目の「割合に」を「割合を」と、同一八四枚目裏一行目の「同法三六一項」を「同法三六条一項」と、同一八五枚目表一〇行目の「原告」を「原本」と、同二一三枚目表五行目の「前記三の(1)」を「前記(三)の(1)」とそれぞれ改め、同二二一枚目表一行目の「裁後に、」を削除する。
二よって、原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官川上正俊 裁判官谷澤忠弘 裁判官今泉秀和)